座る際や立ち上がる際に、お尻の割れ目のすぐ上あたりに痛みを感じる場合は、尾てい骨周辺に原因がある可能性があります。
尾てい骨の痛みは、姿勢や座り方など、日常生活の中で無意識にかかる負担によって生じることが多く、適切に対処すれば改善できるケースも少なくありません。
この記事では、尾てい骨が痛くなるおもな原因や対処法、予防のための生活習慣について詳しく解説します。
尾てい骨とは?
尾てい骨(医学的には尾骨)は、脊椎の最下部に位置する小さな三角形の骨で、人間の進化の過程で「しっぽの名残」としてのこった構造とされています。
通常は3〜5個の椎骨が癒合しており、成長と共にひとつの骨として固定されるのが一般的です。お尻の中央、ちょうど腰と肛門の間に位置しており、座ったときに椅子と接触しやすい部分です。
尾てい骨の役割は、おもに以下のとおりです。
- 骨盤底筋群(恥骨尾骨筋や尾骨筋など)の付着部である
- 骨盤の安定に関与し、直腸や骨盤内臓器を支持する
- 姿勢維持や座位時のバランス保持に貢献する
尾てい骨は、身体の深部にある「骨盤底筋」と呼ばれる筋肉の土台の一部です。
小さくても、骨盤全体のバランスや安定性を保つ役割があり、付着する靭帯(前仙尾骨靭帯、仙骨坐骨靭帯)や筋肉(大臀筋など)が連動することで、直腸や膀胱、子宮などを下から支えています。
また、椅子に座るとき、尾てい骨は座る際の接地面に近いため、姿勢をまっすぐ保つバランサーの役割を担う重要な骨です。
つまり、尾てい骨に痛みがあると、座る、立つといった日常の動作に大きな影響を及ぼす可能性があります。
尾てい骨が痛くなるおもな原因
尾てい骨が痛くなるおもな原因は、以下のとおりです。
- ケガや骨折
- 姿勢不良や長時間の座位
- 骨盤や尾てい骨の歪み
- 筋緊張・ストレス
- 妊娠や産後の影響
- その他の疾患
それぞれ、順番に解説します。
ケガや骨折
尾てい骨の痛みでもっとも典型的な原因は、転倒や衝突による外傷です。
たとえば、尻もちをついたり、階段で滑ったり、スポーツ中にぶつかったりといった場面で、尾てい骨に強い衝撃が加わることがあります。
軽い打撲であれば数日〜1週間程度で痛みが引くこともありますが、骨折している場合は痛みが長引きやすく、日常生活にも支障をきたす可能性が高いです。
また、骨粗鬆症を抱えている高齢者は、些細な圧力でも骨折につながるケースがあります。
更に、骨折していても単なる打撲と誤認され、見逃されることも少なくありません。
尾てい骨付近に腫れやしびれ、力が入りにくいといった症状がある場合は、骨折の可能性を視野に入れて慎重に判断する必要があります。
姿勢不良や長時間の座位
猫背や反り腰といった悪い姿勢は、尾てい骨に不自然な圧力をかけ続ける原因となります。
たとえば、デスクワークやスマートフォンの長時間の使用では、前かがみの姿勢が習慣化しやすく、体重が尾てい骨に集中して負担が増大しやすくなります。
負担が増大しやすい姿勢が続くと、尾てい骨周辺の可動性が低下して周囲の筋肉や靭帯が硬くなり、慢性的な炎症や痛みにつながることがあります。
また、硬い椅子やクッション性のない座面に長時間座ることも、尾てい骨へのダメージを強める要因です。
座るたびに痛みを感じるようになる前に、日常的な姿勢や環境の見直しを検討しましょう。
骨盤や尾てい骨の歪み
日常の癖や出産などによって骨盤が歪むと、連動して尾てい骨の位置にもズレが生じます。
たとえば、片足重心で立つ、横座りをする、足を組むなど、左右非対称な姿勢を繰り返すことで、骨盤が傾いたりねじれたりしやすくなります。
骨盤が歪んだままだと、尾てい骨に継続的な圧力が加わり、ズレた力のかかり方によって痛みや違和感が現れる可能性があります。
また、出産経験がある方は骨盤が一時的に開くため、その後の戻り具合によって尾てい骨に影響が及ぶケースが少なくありません。
上記のような骨格のアンバランスは、外傷がなくても尾てい骨の痛みを引き起こす原因となり得るため、身体全体の歪みにも注意が必要です。
筋緊張・ストレス
尾てい骨の痛みは、筋肉の緊張や精神的ストレスが影響して起こる場合があります。
たとえば、長時間同じ姿勢で作業を続けたり、運動不足が続いたりすると、骨盤周りの筋肉が硬直しやすくなります。肩こりと同様に、尾てい骨周辺の筋肉の「こり」が痛みの原因となることがあります。
また、ストレスを感じると無意識のうちに筋肉がこわばり、血行不良や神経の圧迫につながる可能性を否定できません。
尾てい骨付近は神経が密集しているため、筋肉の緊張によって敏感に反応しやすく、慢性的な痛みに発展しやすいです。つまり、心身のバランスが崩れると尾てい骨周辺にも影響が出ます。
妊娠や産後の影響
妊娠中は「リラキシン」というホルモンの分泌により、出産に備えて骨盤の関節や靭帯が緩みやすくなります。
骨盤の関節や靭帯が緩むことは妊娠・出産に必要な変化ですが、同時に尾てい骨の位置が不安定になり、違和感や痛みを覚える原因になりやすいです。
更に、出産時には骨盤周辺が大きく開くため、尾てい骨が引き伸ばされたり、押し出されたりして炎症や微細な損傷を起こす場合があります。
ほかにも、産後の体重の急激な変化や抱っこ、授乳などの動作によって尾てい骨に繰り返し負荷がかかるケースや、出産で骨盤が歪んで慢性的な痛みにつながるケースは少なくありません。
上記の身体の変化は自然なプロセスではありますが、妊娠や出産で尾てい骨に負担が蓄積しやすいため注意が必要です。
その他の疾患
尾てい骨が痛い場合、別の疾患が原因である可能性が考えられます。
自己判断せず、必要に応じて医療機関で診察を受けましょう。
尾てい骨が痛いときにやってはいけないこと
尾てい骨が痛いときにやってはいけないことは、おもに以下のとおりです。
- 硬い椅子に座る
- 猫背で座る
- 無理なストレッチ
それぞれ、順番に解説します。
硬い椅子に座る
尾てい骨が痛いときに硬い椅子に座ることは、痛みを悪化させる大きな要因のひとつです。
クッション性のない座面では尾てい骨に直接圧力がかかりやすく、炎症が起きている場合は症状が強くなったり、治りが遅くなったりする恐れがあります。
とくに、尾てい骨が突出している体型の方や、お尻周りの筋肉や脂肪が少ない方は骨が椅子にあたり負担が集中しやすいです。
また、過去に尾てい骨の打撲や骨折を経験している方は、長時間の座位がきっかけで痛みが再発したり、慢性化したりする可能性があります。
猫背で座る
猫背の姿勢で座ると、背中が丸まり、自然と骨盤が後ろに傾きます。この骨盤の後傾により、体重が本来かかるべき坐骨ではなく、尾てい骨側に集中しやすくなります。
そのため、尾てい骨に痛みがあるときに猫背で座っていると、重心のズレによって負荷が増し、炎症や違和感を悪化させる可能性があります。
また、背骨や骨盤の動きが制限されることで尾てい骨の可動域も狭まり、周囲の筋肉や靭帯に余計な緊張が加わる状態になります。この状態が長期間続くと、骨盤全体のバランスが崩れ、歪みや慢性的な痛みに発展する可能性があります。
無理なストレッチ
尾てい骨が痛むとき、自己判断でストレッチをおこなうのは避けましょう。筋肉が強く緊張している状態では、無理に引き伸ばそうとすると筋繊維が損傷するおそれがあり、かえって痛みが増すこともあります。
とくに、反動をつけた急激なストレッチや、ねじり、反らしなどの骨盤を強く動かす動作は、尾てい骨や周辺の筋肉に過度な負荷がかかるため危険です。
更に、妊娠中の方は、腹部に圧力がかかる前屈やねじり動作を避ける必要があります。
ストレッチは万能ではなく、状態によっては逆効果になるため、痛みがあるときは専門家に相談したうえで、安全な方法を選ぶことが大切です。
尾てい骨が痛い場合の対処法
尾てい骨が痛い場合の対処法は、おもに以下のとおりです。
- クッションを活用する
- 正しい姿勢を保つ
- 定期的なストレッチや運動をおこなう
- 温熱や入浴、マッサージなどでリラックスする
それぞれ、順番に解説します。
クッションを活用する
尾てい骨が痛むときは、椅子の座面に直接座るのではなく、専用のクッションを活用することが有効です。硬い椅子は尾てい骨に体重が集中しやすく、炎症や違和感が悪化する原因となるため避けましょう。
とくにおすすめなのは、U字型やドーナツ型のクッションです。中央部分に穴が開いているため、尾てい骨が座面に直接触れず、圧力を周囲に分散します。
また、クッションを使うことで、坐骨で支える正しい姿勢を保ちやすくなり、骨盤の安定にもつながるというメリットもあります。
長時間のデスクワークや会議、車の運転などで座り続ける機会が多い方にとって、クッションは尾てい骨の痛みの悪化を防ぐ心強いサポートアイテムといえます。
正しい姿勢を保つ
猫背や反り腰の姿勢では、骨盤が傾いて尾てい骨に体重が集中し、余計な圧力が加わります。
理想的な姿勢は、骨盤を立てて坐骨でしっかり支え、背筋を自然に伸ばすことです。足裏はしっかり床につけ、膝は90度の角度を保つように意識しましょう。
正しい姿勢を保つことで、体重が均等に分散され、尾てい骨への負担が大幅に軽減されます。
なお、長時間同じ姿勢で座ることが多い場合は、無理なく正しい姿勢を維持できる姿勢矯正用のクッションや腰用サポーターなどを活用しましょう。
定期的なストレッチや運動をおこなう
長時間同じ姿勢でいると、骨盤周りの筋肉がこわばり、尾てい骨に負担が集中しやすくなるため、ストレッチや軽い運動を日常的に取り入れ、筋肉の緊張を和らげることが大切です。
血行が促進されることで、尾てい骨周辺の痛みも緩和されやすくなるので、次のストレッチを取り入れてみましょう。
手順 | |
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寝ながらできるストレッチ |
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座りながらできるストレッチ |
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ただし、痛みが強いときや可動域を超えた動きはかえって悪化の原因となるため、無理をせず、ご自身の身体の状態にあわせておこなうことが前提です。
継続的に取り組むことで、姿勢改善や筋肉の柔軟性向上にもつながります。
温熱や入浴、マッサージなどでリラックスする
尾てい骨周りの痛みは、筋肉の緊張や血行不良によって悪化する場合があります。血流が滞ると、周辺の筋肉が硬くなって尾てい骨への負荷が増しやすくなるためです。
そのため、温熱療法や入浴によって身体をじっくり温めることで、尾てい骨の痛みが和らぐ可能性があります。
たとえば、湯船にゆっくり浸かることで全身の血流が促進されると、尾てい骨周辺の緊張も自然と緩むため、おすすめの対処法です。シャワーだけで済ませるのではなく、できる限り湯船に浸かる習慣を取り入れましょう。
また、お尻や腰の筋肉をやさしくマッサージすることで、筋肉の柔軟性が高まり、痛みの根本的な改善にもつながります。
なお、マッサージは強く押し過ぎず、手のひら全体で軽く刺激する程度にとどめるのがポイントです。
リラックスを意識することで、痛みの緩和だけでなく回復の促進にもつながります。
尾てい骨の痛みを予防する生活習慣
尾てい骨の痛みを予防する生活習慣は、おもに以下のとおりです。
- 正しい姿勢を習慣化する
- 軽い運動やストレッチを継続する
- 座る環境を見直す
それぞれ、順番に解説します。
正しい姿勢を習慣化する
尾てい骨の痛みを予防するには、日常的に正しい姿勢を意識することが重要です。
背筋を伸ばし、骨盤を立てて座ることで、尾てい骨に不要な圧力がかからず、痛みや炎症のリスクをおさえることができます。
逆に、猫背や反り腰になると骨盤の角度が不安定になり、尾てい骨の位置がズレて負担が増しやすくなるため注意しましょう。
正しい姿勢を身につけるには、鏡でご自身の姿をチェックしたり、姿勢矯正クッションや骨盤サポーターなどのグッズを活用したりするのも効果的です。
とくに、妊娠中の方や体幹の筋力が弱い方は重心が崩れやすいため、より注意しましょう。
軽い運動やストレッチを継続する
尾てい骨の痛みを予防するためには、日常的に軽い運動やストレッチを取り入れ、筋肉の柔軟性と支持力を保つことがポイントです。
運動不足が続くと、お尻や腰、太もも周りの筋力が低下し、尾てい骨を支える力が弱まって痛みが出やすくなります
たとえば、ウォーキングやヨガ、骨盤周りの筋肉を動かすストレッチは、筋肉の柔軟性を高めながら骨盤の安定性を向上させるのに効果的でおすすめです。
とくに、大臀筋やハムストリングスなどの大きな筋肉を動かすことで、姿勢の改善や体重の分散にもつながるため、トレーニングメニューに組み込みましょう。
また、ストレッチには筋肉の緊張をほぐして血行を促進する作用もあるため、痛みの再発予防にも有効です。無理のない範囲で継続することが長期的なケアにつながるため、続けてみましょう。
座る環境を見直す
尾てい骨への負担を減らすためには、座る環境を整えましょう。
たとえば、硬過ぎる椅子や、高さが合っていない座面は、体重が尾てい骨に集中しやすく、痛みや圧迫を引き起こす原因になるため、なるべく避けるべきです。
代わりに、柔らかさや形状に配慮されたクッションや座布団を活用し、尾てい骨への直接的な圧力を軽減しましょう。
また、椅子の高さは、足裏が床にしっかりつき、膝が90度になる位置が理想です。デスクやモニターの高さも調整し、自然な姿勢で作業ができるよう工夫すると、骨盤の歪みを防げます。
更に、1時間に1回程度を目安に立ち上がって身体を動かす習慣を取り入れると、血流が改善され、筋肉の緊張や尾てい骨の痛みの予防にもつながります。
病院に行くべき症状と診療科の選び方
尾てい骨の痛みが数日程度で自然に軽快することもありますが、なかには医療機関での診察が必要なケースがあります。
たとえば、痛みが2週間以上続く、日を追って悪化する、または激しい痛みや腫れ、発熱、しびれ、排便時の違和感などの症状がある場合は、自己判断せずに早めに病院を受診しましょう。
なお、症状によって適切な診療科は異なりますが、外傷や骨の異常が疑われる場合は整形外科、女性で月経や出産と関係があるなら婦人科、神経症状をともなう場合は神経内科が候補となります。
また、軽度な歪みや筋肉由来の痛みの場合は、病院での診察後に整骨院や鍼灸院での調整も選択肢に入れましょう。
まとめ
尾てい骨の痛みは、転倒によるケガや骨折、猫背などの姿勢不良、骨盤の歪み、筋肉の緊張、妊娠・出産の影響など、さまざまな要因で引き起こされます。
なかには、神経や内臓の疾患が関連しているケースもあり、放置せず原因に応じた対応が必要です。痛みが強い、長期間改善しない、しびれや腫れをともなう場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
一方、姿勢や座り方、運動不足が関係している場合は、クッションの活用や正しい座り方を意識し、日常的なストレッチや軽い運動を取り入れることが予防と改善の鍵になります。
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この記事の監修者 Supervisor
理学療法士 キャリアコンサルタント 金森輝光

これまで20年以上にわたり、理学療法士として大学病院、回復期病院などで外来や入院患者さまへリハビリテーションを提供。さらには介護保険分野まで幅広く臨床経験を積み、対応した患者数は5000人以上。特に姿勢や歩行に関わる分野では、インソール(足底挿板療法)作成に従事し、靴の選び方や履き方をテーマとした市民公開講座の講師も経験。科学的根拠に基づく運動処方を心がけつつ、患者さま一人ひとりの生活や体調に合わせたオーダーメイドのプラン提供を得意とする。長年の臨床経験から、安全かつ効果的な運動は正しい身体の使い方と基礎知識に支えられることを実感している。
■資格
理学療法士
キャリアコンサルタント
健康経営エキスパートアドバイザー
中高等学校教諭一種免許状(保健体育)
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